米国航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「オサイリス・レックス」が、2020年10月21日、探査している小惑星「ベンヌ」への着地に成功した。その後、塵や石などのサンプルの回収にも成功したことが確認された。探査機は2023年に地球に帰還する予定となっている。
小惑星は太陽系が誕生したころの情報を秘めた天体であり、集めたサンプルを調べることで、太陽系や私たちのような生命がどのように生まれ、どのように進化してきたのかについて、重要な手がかりが得られる可能性がある。
しかし、オサイリス・レックスの前にはベンヌの険しい地形が立ちふさがり、着地は一筋縄ではいかなかった。運用チームはどのようにしてこの課題を解決し、小惑星のサンプルという成功の果実を掴み取ったのだろうか。
オサイリス・レックス
オサイリス・レックス(OSIRIS-REx)は、NASAが開発した小惑星探査機で、地球近傍小惑星のひとつである「ベンヌ(Bennu)」を探査し、さらに塵や石などのサンプルを回収して地球に持ち帰ることを目指している。
太陽系は、いまから約46億年前に誕生し、徐々にいまの姿へと形づくられていったと推定されている。そのなかで、私たちが住む地球などの惑星は、もとは小さな塵から始まり、それらが徐々に集まってつくられていったとされるが、その過程でいったんどろどろに溶けてから固まっているため、惑星をつくった元の物質がどんなものだったのかという情報は失われている。
一方、小惑星や彗星はそうした変化が起こっておらず、太陽系が誕生したころやその後の進化についての情報をもっているとみられている。そのため、小惑星を探査することは、いまから約46億年前からこれまでに太陽系に何が起きたのか、地球の水はどのようにもたらされたのか、そして私たちのような生命はどのように生まれたのかなどについて、理解を深めることができると考えられている。
また、小惑星には水や金属といった資源が眠っているため、将来の人類の宇宙進出に役立つ情報も得られる。さらに、小惑星の地球への衝突に対する備えにも役立つと期待されている。
オサイリス・レックス(OSIRIS-REx)という名前は、Origins-Spectral Interpretation-Resource Identification-Security-Regolith Explorer(起源、スペクトルの分析、資源の解明、防衛、レゴリス(表面の土)の探査機)の頭文字から取られており、まさにこうした成果を得ることが表れている。
オサイリス・レックスが探査するベンヌは、1999年に発見された小惑星で、 地球近傍小惑星のひとつであるアポロ群に属する。直径は約560mで、有機物(炭素を含む化合物)や水を多く含むC型小惑星の一種であるB型小惑星に分類されている。また、現在のベンヌの軌道から、将来的に地球に衝突する可能性がわずかにあることも知られている。
ちなみにOSIRIS(オシリス)とは、エジプト神話に出てくる冥界の神の名前であり、ベンヌは同じくエジプト神話に出てくる不死の霊鳥で、またオシリスの魂でもあるとされる。
オサイリス・レックスは、NASAとロッキード・マーティン、アリゾナ大学などが開発した。打ち上げ時の質量は約2110kgで、同じようなミッションを背負った日本の小惑星探査機「はやぶさ2」の約5倍にもなる。探査機にはさまざまな種類のカメラのほか、赤外線分光計、熱放射分光計、X線撮像分光計、レーザー高度計などを装備している。
TAGSAM
そして最大の特徴は、「TAGSAM(Touch-and-Go Sample Acquisition Mechanism)」と呼ばれる、塵や石などのサンプルを採取するための装置をもっているところである。
TAGSAMは長さ3.35mのロボット・アームをもち、その先端に「コレクター・ヘッド」と呼ばれるサンプル採取装置を装備している。探査機はベンヌの地表に向けて、まさに名前のとおり「タッチ・アンド・ゴー」をするように舞い降り、採取装置が触れた瞬間に窒素ガスを噴射、それによって塵や石を舞い上がらせ、採取装置の中に取り込む。NASAではこの仕組みを「エアブロー式掃除機」と例える。
採取できるサンプルの量は、少なくとも60g、最大で2kgまで対応できる。また採取に失敗した場合に備え、最大3回の採取活動が可能なように設計されている。
ちなみに、日本の「はやぶさ」や「はやぶさ2」は、探査機本体から飛び出した筒のような装置をもち、その先端が小惑星の表面に触れた瞬間に弾丸を撃ち、舞い上がった塵や石が筒の中を通って探査機本体に取り込まれるという仕組みになっている。NASAでも同様の仕組みの装置を検討したことがあったが、より採取しやすい仕組みとしてTAGSAMを開発した。もっとも、「はやぶさ2」もサンプル採取に成功したとみられており、結果的にはどちらも正解だったということになる。
サンプル採取後は、ロボット・アームを使い、サンプル採取装置を回収カプセルの中に収納。地球に持ち帰り、地球にある最先端の装置を使って分析を行う。
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