ドイツの食肉工場で何が
ドイツでは、5月半ばから、そろそろお店やレストランなども開き始め、国民がほっと一息ついている。ただし、もし、どこかで集中して感染が発生した場合、その自治体では再び制限措置を取るという決まりになった。
ところが、そんな発表のあった2日後、突然、食肉の加工工場で大量のコロナ感染者が出ているとの報道。しかも、一ヵ所だけではなく、全国の複数の食肉工場で感染が起こっているというのである。
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なぜ、そんなことになっているのか?
ドイツでの肉の消費は多い。去年は若干減り、一人当たりの消費量が年間60kgを切ったというが、ほぼ日本の2倍だ。日本人も肉は好きだが、欧米のようにドカンと塊で食べることが少ないので、量としては少なくて済む。
それに、ドイツでは肉の値段が異常に安い。もちろん高級肉もあるが、格安スーパーなどでは、日本人から見たらただのような値段で、肉は買える。
ドイツでは、安い食肉はほぼ例外なく大工場で精肉されており、当然、大量生産だ。牛、豚、鶏といった「原料」が工場に着くと、屠殺から始まり、ベルトコンベアでスイスイと進んで、最後にはプラスティックのトレーでレッテルの貼られた商品となって出てくる。
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食肉工場の従業員はルーマニア、ブルガリアなど東欧からの外国人労働者が多い。たいてい単身で来ており、賃金は安い。彼らがベルトコンベアの横に張り付いて、どんどん流れてくる肉を包丁でさばいていく様子はよく映像で見かけるが、かなりの肉体労働だ。
いずれにしても、ここで今、コロナ感染が広まってしまった(ちなみに食肉工場でのコロナ集団感染は、ドイツだけの現象ではなく、アメリカや、カナダや、ブラジルや、オーストラリアでも起こっている)。
その理由として挙げられているのは、まず、労働環境がかなり「密」なうえ、肉体労働のために呼吸が荒くなり、マスクなどではウイルスの散布が防ぎきれないこと。しかも、工場内の気温が低く設定してあるから、ウイルスがより長く生き延びる。
ただし、一番の問題は宿舎だ。用意されている宿舎の環境があまり良くなく、しかもたいてい複数の人たちが一つの部屋で寝起きしているので、感染者が一人いると、あっという間に広がってしまう。
介護と農業も外国人頼み
コロナ以来、ドイツのいくつかの産業部門で、外国人労働者の不足が話題になっている。隣国との国境を閉めてしまって即座に困ったのが、介護部門と農業だ。
介護士は、ポーランド、ルーマニアなどの東欧と、あとはクロアチアなど旧ユーゴスラビアの女性が抜群に多い。ポーランドとドイツは国境を接しているので、毎日国境を越えて通勤している人もいるし、また、それ以外の人たちも、定期的に行ったり来たりしている。
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というのも、介護の仕事は法律で定められている1日の労働時間を超過してしまうため、3ヵ月に1度、まとめて休みを取って残業分の清算をしなければならないからだ。つまり、その休暇で国に帰っていた人が、この度ドイツに戻れなくなった。病院や老人ホームはたちまち窮状となり、陳情の末、慌てて例外措置が作られたという経緯がある。
農業の方はというと、こちらもものすごく外国人労働者が多い。現在、ドイツは白アスパラの収穫の真っ盛りだが、この時期には毎年、期間限定の外国人労働者が大量に入る。ところが、今年は3月の半ばから国境が閉鎖された。
そこで、現在はドイツ国内でも失業者が多いので、だったら、ドイツ人を募集しろという声が上がった。しかし、ドイツの農家は、ドイツ人を募集するには賃金を大幅に上げなければならないし、そのうえ、たとえ賃金が上がっても、重労働なので人が集まるかどうかと、最初から及び腰。そこで結局、やはりこちらも、コロナ対策を厳重にするという条件で例外措置ができた。
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今年は、白アスパラが例年より少し高いが、それは、できる限り感染を防ぐため、労働者の宿舎を改善したり、列車ではなく飛行機で入国させたりと、経費がかさんだためだ。それでもドイツ人を雇うよりはずっと安いのだから、EU内の貧富の差は大きい。
ちなみに、農家の出稼ぎ労働者は、白アスパラだけでなく、イチゴやブドウの収穫などでも必要とされるし、それ以外でも、通年、一定数が入っている。ドイツの農業は、これら出稼ぎ労働で保たれているといっても過言ではない。
さらに言うなら、製造業も同じ。ドイツ経済が強いのは、製造業においても、農業においても、背後に抱えた東欧や旧ユーゴスラビアといった国々の労働者をうまく活用しているからだ。
全世界が陥っている貧富の格差
食肉工場に話を戻せば、この集団感染のせいで、当該の自治体では厳しいコロナ規制が据え置かれることになってしまった。だから、町の人たちの間で、それに対する不満やら、外国人労働者にウイルスを撒き散らされてはどうしようという恐れなどが広がっているという。
ただ、工場の経営者にしてみれば、自分たちは大型納税者として、その地域に大きく貢献してきたという自負もあり、今回、不当にもスケープゴートにされたと感じている。
しかも、そうでなくても最近は、食肉工場は常に槍玉に上がっている。というのも、ドイツでは「肉を食べるな」という運動が、異常に盛り上がっているからだ。
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“肉を食べるな運動”は、元は動物愛護で、それが食肉加工工場への抗議となったのだが、この頃は、畜産で生じるメタンガスが地球の温暖化の原因であるという理由も大きくなっている。そして、今回のコロナによる食肉産業での集団感染で、この運動にさらに拍車が掛かる可能性はある。
しかし、少し冷静に考えてみたい。なぜこのような大量生産の畜産や精肉が根付いてしまったかといえば、人々が少しでも安い肉を買おうとするからという理由に尽きるのではないか。
安い肉を作るために、価格競争が激化し、肉の生産がどんどん合理化された結果、安い労働力を使う大工場での大量生産になってしまった。この仕組みは、他の産業部門とまったく同じだ。
エマニュエル・トッドが、著書『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』の中で、「EUの東方拡大によってドイツは、社会主義政権下で高い水準の教育を受けた良質で安い労働力を活用し、経済を復活させ、ヨーロッパを支配するに至っている」という意味のことを主張していたが、真実を突いていると思う。
しかしながら、それがたとえ真実でも、ドイツ国民はその恩恵はそれほど受けていない。安い労働者が入って来れば、当然、自分たちの賃金も上がらず、儲かるのは資本家ばかり。
そして、さらに言うなら、その資本家たちだって、グローバリズムが引き起こした熾烈な価格競争に耐え抜くために、当然の努力をしているに過ぎないのではないか。
幸か不幸か、今回のコロナでいろいろなことが見えてくる。いずれにしても、食肉産業を価格競争に追い込んだ産業構造が、現在、全世界が陥っている貧富の格差という問題と根は同じであることだけは確かなようだ。
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May 15, 2020 at 04:00AM
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